■ 二つのコーヒー起源伝説

■イスラム教圏に伝来する話■

シェーク・オマールの伝説

 アラビアのモカ(現イエメン)の守護聖人シーク・スシャデリの弟子シェーク・オマールは、モカで祈祷師として人気を集めていました。ある日、モカ王の娘の病気を祈祷で癒したとき、オマールはこの娘に恋をしてしまい、これが王に発覚。オマールはオウサブという地に追放されてしまいます。オマールは、この山中で素晴しい羽根をもった小鳥が小枝にとまり陽気にさえずるのを見つけました。その鳴き声があまりに美しかったので、思わず手をのばすと、木の枝々には花と果実があるだけでした。空腹だったオマールはこの果実を摘み取って洞窟に持ち帰り、スープを作ってみようと思いました。その果実からは素晴しく香りのよい飲み物ができ、飲んで見ると元気が出たような気がしました。それがコーヒーだったのです。

■キリスト教圏に伝来する話■

ヤギ飼いカルディの伝説

 アビシニア(現エチオピア)にカルディという一人のアラビア人ヤギ飼いがいました。ある日のことカルディは、自分が世話をしているヤギが牧草地に生えている灌木の実を食べると、騒がしく興奮状態になることに気づきました。そこで、近くの修道院を訪ねてこの不思議な話を伝えると、院長も不思議に思い、その実の効能を自ら試してみることにしました。茹でて飲んでみたところ、気分が非常に爽快になったのです。これに驚いて彼は夜の儀式中に居眠りをする修道僧たちにも飲ませてみることにしました。すると効果てきめん。弟子たちは居眠りもせずに勤行に励むことができました。やがて「眠らない修道院」の噂は国中に広まり、魔法の木の実が競って求められるようになったということです。

 いずれの場合も伝説として語られていますが、もともとイスラム教圏内で飲まれていたものが、キリスト教圏内に広まったことから、ヤギ飼いのカルディの伝説が後から作られたのではないかと思われます。「自分たちの飲み物だ!」と意地を張っているみたいな感じでしょうか。

 

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