河津桜を見ながら思う

1月で90歳になられたお客様から、「あなたから生き方を学んだ。」と言われました。えっ???正直、何をおっしゃっておられるのやら?こちらこそ、お客様との会話やお仲間同士で来店された様子を見ながら、「あんな御爺さんになってみたいものだ。」と思っているくらい、温厚で優しい振る舞いに憧れを抱いておりましたから、ただただ驚いたのでありました。

 年を取ると仏様のような人柄になれば良いものの、まめ蔵に来店されるご年配の多くは愚痴や不満を口にされ、天に向かって唾を吐くような言葉や噂話が聞こえ漏れてきます。昔の自分も傍から見れば同じようなものだったかもしれませんが、毎日、お気楽に珈琲屋をしていると、そうした声が気になってしまい、90歳を迎えられたお客様との会話が心地よいものになっていたのです。

 今年で65歳となる私は、最近、人生の散り際について考える事も多くなりました。それも、95歳になる要介護の母親の今後を想像したり、同年代の友人知人から親の介護について相談される事が増えたからでしょうか。90歳になられたお客様のような、憧れる生き方をされている方とは異なる高齢者の存在を見るにつけ、自分では何とも潔い散り際が想像できません。

散り際の潔さで、日本人の琴線に触れる花といえばソメイヨシノでしょう。生命の胎動が始まる春という季節に、圧倒的な華やかさで咲き誇り、そして短い命を終えるソメイヨシノの姿に「美」を感じる人は多いと思います。残念ながらソメイヨシノの開花までは時間がありそうなので、早咲きの河津桜を見てみようと出かけたのが、豊田市にある加茂川公園です。

公園の駐車場には既に多くの車が停まっており、皆さん公園の横に流れる加茂川沿いに咲き誇る河津桜並木を散策されています。川面に大きく張り出した枝ぶりの良い河津桜も多く見応えがあり、のどかな風景と川のせせらぎの音に心が癒されます。ただし、気温9℃の曇り空ということもあってか、土手に座って花見をする方はありませんでした。

河津桜はソメイヨシノに比べ、花が大きく濃いピンク色なのが特徴です。きっと、晴れた日には濃いピンクが青空に映えたでしょうが、満開の桜を見ながら歩いていると、そんなことも忘れてしまいそうになります。やはり、桜は日本人にとって特別な存在なのかもしれません。人生の散り際について考える事も余り意味のないこと、自分では何ともならないことだと気付き、今のままで構わないと思いながら公園を後にするのでした。 

ちなみに、90歳のお客様が私から何を学んだかは尋ねませんでした。分かったところで、自分は今のままですから。