お雛めぐり

数年前から毎年出かけている「陶のまち瀬戸のお雛めぐり」のチラシを見ていると、妻が「私も行きたい」というので、今回は女雛男雛のように揃って瀬戸の町を巡りました。

先ずは、「瀬戸市新世紀工芸館」の交流棟企画展「節句を祝う置物とうつわ」を見ます。陶芸やガラスによる雛人形や節句を祝う小物な展示販売され、作家ごとに表現する雛人形の違いに感心しながら、「桃の節句の雰囲気を味わえる作品が我が家にもあるといいもかな。」などと思ってみるのでした。

一階のカフェでは、コーヒーと三色のスノーボールがセットになった「雛せっと」(400円)が注文でき、店内に置かれてある作家さんのコーヒーカップを選んで飲むことが出来ます。どうせならと、どう考えても使いにくいカップを選び、古民家の太い梁の天井を見ながら非日常を味わうのでした。

そこから歩いて数分の場所にある、メイン会場となる「瀬戸蔵」へ向かいます。高さ4mのピラミッド型巨大ひな壇「ひなミッド」に並んだ約800体の陶磁器・ガラスの創作雛の上には、46本のつるし飾りを眺めながら、一体ごとに異なるお雛様を見て回ります。その横には変り雛も並んでおり、今年は瀬戸市に住む藤井八冠にちなんだ「将棋八冠雛」や、「ペッパーミル快進撃雛」、「生成AI雛」、「行楽地大渋滞雛」など、ご時世に合った内容の作品となっています。そこから橋を渡って銀座商店街を散策して帰ったのですが、平日とあって観光客も少なく、シャッター通りとなっている商店街を歩いてみると、「お雛めぐり」の旗が虚しく見えます。

 ちなみに、「ひな祭り」は旧暦の33日前後に桃の花が満開になることから、「桃の節句」と呼ばれています。起源については諸説あるものの、平安時代(7941185年)までさかのぼるともいわれ、当時は幸運を祈願する日として祝われていました。このお祭りでは、紙や藁でできた人形をいかだにのせて川に流す儀式が行われ、これにより罪が洗い流され、悪霊や災難を追い払うと信じられていたようです。

 そんな「流しびな」の風習が今でも続いているのが、鳥取市用瀬(もちがせ)町です。ここでは、男女一対の紙雛を桟俵にのせ、桃の小枝と椿の花や菜の花を添えて、災厄を託して千代川(せんだいがわ)に流しています。無病息災で1年間幸せに生活できますように願う情緒豊かな民俗行事です。用瀬町では、時代の変遷と共に形を変えながらも、“もちがせの流しびな”として受け継がれているそうです。

「源氏物語」には、源氏の君が祓いをして人形(ひとがた)を舟に乗せ、須磨の海へ流すという著述があり、雛流しそのものの原型は、遠く平安時代にさかのぼるといわれていますが、用瀬町のように川に流すのではなく、須磨の海(神戸の海)ではない、和歌山の海に本物の雛人形を流すのが、和歌山市加太にある淡島神社です。全国各地から奉納された雛人形と願い事を書いた形代を3隻の白木の小舟に乗せ、宮司のお祓いののちに海に流す神事です。 

そんな人形に罪や悪霊を川や海に流すことが由来の一つとされて知るも、千年もの年月を経て今でも、人は罪深い行いを繰り返し、悪霊が絶えない世の中であることを考えると、平和の世界はやってこないように思えてならないのです。