フィンランドの空気

フィンランドの首都、ヘルシンキにおける昨日の最低気温は-10℃、最高気温-2℃だそうです。ここ日本の土岐市では、最低気温は-3℃で最高気温6℃と異なるものの、同じ真冬の寒さの中、岐阜県現代陶芸美術館(多治見市)で開催中の、「フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン」と「ムーミンの食卓とコンヴィヴィアル展  ―食べること、共に生きること―」を観てきました。

デザイナーが高い芸術性を志向して手がけたフィンランドの「アートグラス」に着目し、1930年代の台頭期からの「第1章 フィンランド・グラスアートの台頭」50年代に始まる「第2章 黄金期の巨匠たち」そして現在に至るまでの展開を「第3章 フィンランド・グラスアートの今」として、約140件の作品が展示されています。

 ガラス製作所とデザイナー、そして職人との信頼関係の元で生み出されたフィンランドのグラスアートですが、デザイナーばかりが表に出ており、職人が生み出す技術の面が見えなかった残念だった。素人ながら「どうやって作っていくんだろう?」という驚きと疑問が湧いてくる作品ばかりでした。高温の中で変形し続けるガラスを、如何にして思い描くデザインに整形していくのか不思議でならなかった。また、透明な作品の向こうにフィンランドの森や湖が見えるような気がした。

 「コンヴィヴィアル(convivial)」とは、con(共に)+vivial(生きる)を語源とし、「自立共生」と訳されており、自立した存在が共に生きる中で生まれる生き生きとした情動や喜びを意味する言葉として、哲学者のイヴァン・イリイチが使っています。多様な価値観が隣あってせめぎあう現代社会において、各々の「個」をしっかりと保っているのになんとなく共生しているムーミン谷の仲間たちの生き方は「コンヴィヴィアル」という概念があてはまるのかも知れません。

 巷では「インクルージョン(inclusion)」って言葉が使われ、排除されることなく社会の構成員として内包されることを理想としているようだけれど、実際には自己承認欲求ばかりが強くて、周りを気にしてばかりの「個」を持たない人が多いように思います。「自立共生」の「自立」が抜け落ちた歪な社会の中で、子供の頃から変わらないムーミン谷の仲間たちを眺めて帰りました。 

 なんとなくフィンランドの空気を感じながら。