ろう者の俳優

今年の5月に読んだ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(著:丸山正樹)が、草彅剛主演ドラマとして、1216日(土)にNHK総合・BS4Kテレビドラマとして放送されました。私は、まめ蔵で仕事の合間を縫ってNHKプラスで観たのですが、中々見応えのある仕上がりになっており、民放のタレントを使ったドラマと異なり見入ってしまいました。

ファミリーレストランで手話をしていた尚人たちを見て、「手話って笑えるっていうかさ、大丈夫だって、どうせ聞こえないんだよ。」と悪口を言った若者たちの光景は、まめ蔵でも、カウンター越しにろう者と手話で会話をする姿を見たお客様の反応が様々であることを思い出させます。私は尚人のように悪口を手話で見せて、「どうせわからないから。」という下品なことはしませんが。それに、下品な手話も知りませんし。

 また、手話通訳士技能認定試験の会場外で受験者から話しかけられた際、尚人は手話で「(合格率1割の試験は)難しくて当然ですよ。手話は流行のおもちゃじゃありませんから。正確な通訳ができなければ、かえってろう者の負担になります。」と断じています。だからこそ、手話サークルでは毎週学習会を行っており、ろう者の負担にならないような手話レベルの向上に努めているのです。

 先日、手話通訳士試験の前レベルとなる、全国統一手話通訳者試験が行われました。手話通訳士レベルまではいかないものの、手話奉仕員として県や市での手話通訳派遣が行えるくらいのレベルの通訳者認定を行うものですが、合格率20%程度と試験内容は難しいものとなっています。学習会の中で過去問題を取り上げたことがありますが、年々審査が厳しくなっていると感じました。それも、生活や命に係わるコミュニケーション手段である手話ですから、当然と言えば当然ですが。

 そんなこともあって手話通訳者の数は中々増えていきません。特に地方においては高齢化もあって手話通訳者が減少傾向にあります。いくらAI技術が進もうと、対面で人と人がコミュニケーションを行う必要な無くならず、手話通訳者は必要な存在ではあるものの、先進諸国のように手話通訳で生計を立てる事は一部の人を除いて困難であり、ボランティアによって支えられているのが現状です。

 今回のドラマには、エキストラも含めると30名以上のろう者、難聴者、コーダの役を当事者が演じています。ドラマを観て気付いたのですが、手話通訳学科講師として幼いころからコーダの尚人を見守ってきた冴島素子役が、なんと、岐阜ろう劇団「いぶき」の河合依子さんだったことです。劇団創立の40数年前から知っている方だけにTVドラマの出演を嬉しく思ったと同時に、舞台とまったく違った演技で驚いてしまいました。

 原作では、ろう者社会でのキーマンとして描かれており、後編「もうひとつの家族」でも重要な役回りをするはずです、どんな演技をされるのか注目したいと思います。知っている人が登場するだけでワクワクするもんです。 

 原作者である丸山正樹さんは、ある対談の中で、タイトルとしての「デフ・ヴォイス」には3つの意味があると言っています。一つは、そのまま「ろう者の声」、もう一つは、ろう者にとっての言語である「手話」、そして最後の一つは、ろう者に限らず、言いたいことがあっても圧倒的な多数の前にはあっては声が社会に届きにくい「社会的少数派の声」だそうです。 前編・後編を含め、テレビと言う映像でどのように表現されるのか観てみます。