メゾン

昨晩は、手話サークルの学習会の場で、「みんなで一緒に舞台を楽しもう」を合言葉に活動するNPO法人TA-net(シアター・アクセシビリティー・ネットワーク)による、舞台⼿話通訳・字幕・音声ガイドつきの短編演劇「メゾン」のYutube動画を上映しました。

イギリスの劇場では、手話通訳、字幕投影、目の見えない方への音声ガイドや舞台説明があらゆる劇場で提供され、経費も国が保障しているそうです。そんな仕組みを日本でも実現するため、台本の貸出、手話通訳、字幕投影、主催者や劇場を繋ぐことを目指しているのがNPO法人TA-netです。

「障害のあるなしに関係なくアートを通じて豊かに暮らせる社会を作りたい」という思いで活動されていますが、日本には2018年(平成30年)に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(障害者文化芸術活動推進法)」が既に施行されています。

この法律の基本理念には、次のように書かれています。(一部抜粋)

・文化芸術を創造し,享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み,国民が障害の有無にかかわらず,文化芸術を鑑賞し,これに参加し,又はこれを創造することができるよう,障害者による文化芸術活動を幅広く促進すること。

・専門的な教育に基づかずに人々が本来有する創造性が発揮された文化芸術の作品が高い評価を受けており,その中心となっているものが障害者による作品であること等を踏まえ,障害者による芸術上価値が高い作品等の創造に対する支援を強化すること。

・地域において,障害者が創造する文化芸術の作品等(以下「障害者の作品等」という。)の発表,障害者による文化芸術活動を通じた交流等を促進することにより,住民が心豊かに暮らすことのできる住みよい地域社会の実現に寄与すること。

 

生まれながらの権利だから、障害の有無に関係なく文化芸術を楽しめるかといえば、聴覚や視覚に障害のある人が映画や演劇を楽しめる機会は、健常者と同じようにはいきません。邦画の字幕付き映画の上映回数は僅かで、場面状況を伝える音声ガイドは更に少ないのが現状です。

ちなみに、音声ガイドとは、目の見えない・見えにくい方でも映画を一緒に楽しめるように、映像の情報を音声で補うサービスです。風景や状況や登場人物の表情などをセリフの合間に挿入し、セリフや環境音だけではわからなかった映画の情報を伝えることができます。最近では音声ガイドアプリや字幕をスマートグラスに挿入するアプリも出てきているようですが、劇場側が用意している訳ではなく鑑賞する側の個人が準備しなければならないのが事情です。

根底には、まだまだ、障害は個人の側にあるものととらえるか、社会がかかえる問題ととらえるかという認識の違いがあるように思います。そもそも、障害の原因はその人だけが持っている心身的な課題と考えるのか、社会の中に障壁があるから、社会の仕組みを変えることが必要だと考えるかによって捉え方が異なるため、まだまだ、「自分とは関係ない」と考える人が多いのも事実です。

 法律の基本理念について、「見る、聞く、感じる体験を増やす」、「作る、やるを容易にする」、「多くの人に見てもらう」、「障害の有無を超えて出会い学び合う」、「障害者が活動しやすい環境を整える」ことと言い換えることができるという記事を見たことがあります。確かに分かりやすい表現ですが、この法律があることによって文化芸術活動への障害がなくなり、誰もが芸術を通じた社会との関わりが増え、相互理解も進み、多くの人にとって生きやすい社会になると考えるのは、ちょっとばかり甘いのではないでしょうか。法律の施行から5年経っている現実を見ると。

 

 「芸術の秋」呼ばれる季節に、ちょっとだけ芸術に触れ、ちょっとだけ考えてみました。