スカラベ

『ファーブル昆虫記』(著:J.H.ファーブル)の中に、「昆虫という、もっとも小さいものの中に、最大の驚きがかくされている。スカラベはどうして、だれにもならわずに、ふんの山からみごとな球形をくりぬき、それをころがし、地中にうずめることができるのか。」という有名な話があります。これは、動物のふんを玉にしてころがす甲虫のタマオシコガネ(フンコロガシ)が、自分の卵を産み付けるためにフンを転がして丸めて地中に埋める様子です。

和名であるタマオシコガネ(フンコロガシ)は古代エジプト語で「スカラベ(scarab」と呼ばれ、古代エジプト人は、その糞玉からスカラベが生み付けた卵が孵って生命が出てくることから、自分自身を創造する太陽神を象徴するものとされています。また、糞玉のように日輪の回転を司るケプリ神の化身とみなし、「再生」「復活」「創造」のシンボルとされ、古代エジプトではその意匠は彫刻、印章、護符、装身具などに用いられました。

その、「再生」「復活」「創造」を考える機会が最近何度かありました。お客様の中で、何度か転職するも中々思い通りの活躍が出来なくて悩んでいる人、勤めている会社の態勢が大きく変わってしまい、新たな会社でチャレンジしようと心に決めた人など。また、病に襲われながらも恐怖心と戦い治療に向き合う人、何度も病魔に侵されて戦う気力を失いかけてしまった人もいます。

小さな珈琲屋の店主としては、そんなお客様に対して出来ることは、心を込めたコーヒーを一杯淹れることと、一生懸命に焙煎したコーヒー豆を提供するくらいしか出来ません。そして、また飲みたいと思ってくれることを願うばかりです。それが、今持っている力に少しでもプラスになればと期待しています。

 

フンコロガシは神と崇められるも、悲しいかな、珈琲屋の店主は店主のままなのです。頭は坊さんみたいなのにご利益の無い店主です。