新聞記事を読んで

 今朝の中日新聞「東濃版」に、業務用食器製造の光洋陶器(土岐市泉町久尻)が、器にまつわる種々の体験ができる複合施設「KOYO BASE」を今月21日にオープンするという記事が掲載されていました。自社の三階建倉庫を改装し、二階部分にランチやコーヒーを楽しめるカフェダイニング(40席)を設けるというものです。

 記事によれば、「山のわき水と微生物肥料で育てる市内の農園ファームレガーロでとれた野菜のスパイスカレー、指定農場で育てられた恵那鶏の定食など、季節に合わせた料理を提供。コーヒーに使うカップやドリッパーに特化したブランドORIGAMIによるコーヒー飲み比べも楽しめる。」とあります。個人的には、オリガミドリッパーを製造するメーカーだけに、コーヒーに特化したカフェを期待していましたが、どうやら産業観光をイメージさせる内容のようです。

 そのため、カフェで提供した皿などの製品を販売するショップのほか、絵付けや転写などを体験できるワークショップコーナーが設けられたり、隣接する工場では、職人の技と最新のオートメーションを融合させた製造過程の見学も受け付けるそうです。地元の学校の社会見学コースとして長く受け入れされている経緯もあり、こうした態勢がスムーズに取れるのでしょう。

 地元の陶磁器製造メーカーがカフェをオープンさせると言えば、昨年の1123日には、美濃焼ストローのMYSTOROを製造する株式会社カネスが運営する「Dachi Cafe and U」が駄知町にオープンしました。ドリンクは美濃焼ストローのMYSTOROで飲むことができ、陶磁器製ストローに絵付体験(要予約)が出来るといいます。

 地場産業である陶磁器メーカーの中には、ギャラリーを併設するところも増えてきましたが、異業種である飲食店を運営するなど、「知る」、「体験する」、「食べる」といった、一つの場所で複合的に楽しめる場所ができたことに、産業観光としての体をなしてきたと期待しています。また、「KOYO BASE」では工場見学もできることから「学ぶ」施設としての機能も持ちます。

 伝統産業や地場産業と言われる、地域に根付いた産業の現場や技術を一般に公開することは、産業観光の施設や企業、技術・ 製品等の PR のみならず、来訪者と周辺地域との様々な交流による地域振興や、ものづくりの重要性の啓発、文化的側面からの産業振興など社会的意義があります。

 一方、観光の側面には「知る」、「学ぶ」、「体験する」観光への志向が高まりを見せており、知的欲求を満足させることのできる観光形態が注目を集めています。私自身も旅行へ出かける前には事前に体験施設を調べることも多く、産業観光という要素があるかどうかは、地場産業にとって生き残りのためには必要だと考えます。

 地元企業にとっては、来訪者を受入れることで現場と消費者との距離を縮めることなり、消費者の声を直接聞くことがで、興味や嗜好性などをうかがう中で新たな商品開発へのヒントを得ることも可能です。逆に、来訪者は製造過程を見学することで、企業と製品の印象をより強く受け、企業や製品に対するファンとなります。

 ここ数年、企業による偽装や改ざん等、製品や商品に対する信頼性が失われるきっかけとなる事件が各地で発覚し、多くの消費者が製造現場に不信感を抱いている状況にあります。こうした中で、現場を自ら公開することは、製品の製造、製作に対する企業の取り組み姿勢や、製品の安全性をアピールすることができ、消費者からの厚い信頼を得ることにもつながります。同時に、工場を公開することで、工場内の清掃や整理等が強化され、製品の品質自体の向上にもつながるでしょう。

 「KOYO BASE」のような事業所の公開や展示・体験施設の存在によって、地場産業についての理解や興味を広げることで、地域の若者が陶磁器産業で働く契機になれば一番良いのですが。ただ、それまでには、残るべき事業所への淘汰といった厳しい段階を踏まなければなりません。 

 研修生という名の外国人労働者に依存しながら、原料高、燃料高に悲鳴をあげている地元企業からの声を聞くたび、地場産業の将来を危惧しながらも、新しい動きに期待してみるのでした。行政の作る箱モノだけの空っぽ施設を見るたび、民間企業の取り組みが頼もしく見えてしまいます。