オーガニックについて

有機農業という言葉が聞かれて久しくなりますが、日本では今一つ盛り上がりに欠けるようです。それを表すように、200612月に超党派議員立法「有機農業推進法」ができたにも関わらず具体策もなく、ようやく農水省は20144月に「2018年度までに、現在0.4%と見込まれる我が国の耕地面積に占める有機農業取り組み面積の割合を倍増させ、1%とする」といったレベルでした。その後、20215月には国土の25%まで有機農地を拡大する政策を2050年までの目標とするなど、日本での有機農業普及はまだまだ遥か先のようです。

化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない、そして遺伝子組み換え技術を利用しない農業のことを有機農業といい、そうではない従来からの農業は「慣行農業」と呼ばれています。海外ではその慣行農業への不信感があり、消費者が有機農業による作物のほうが安心できる、だから余分にお金を出しても買いたいと考える傾向があります。

 ところが日本の場合、消費者が慣行農業に妙な信頼感を持っており、有機農業による作物の消費量がなかなか増えないとか、作物の見た目が曲がっていないか、色はどうか、虫や鳥に食べられた跡はないかといった、見た目による流通規格が厳密に行われていることもあって、一般消費者は購入の段階で規格に慣らされてしまい、不揃いになりやすい有機農産物を買わないとも言われています。

日本では消費者の理解が今ひとつ進まない中、海外では有機農業100%を掲げて取組む国が存在します。その一つがブータンです。2012年に今後10年間で農産物栽培における化学肥料や農薬の使用を段階的に削減し、最終的に同国の主食である小麦やジャガイモ、果物を完全な有機農産物とすることを目指す、オーガニック100%計画が出されました。仏教国のブータンでは農業で生き物を殺戮することを良しとせず、既に多くの農家が腐葉土や堆肥を用いた農業を行っているものの、現地で活動する日本のNPO法人の活動報告を見ると、なかなか容易でないことが窺い知れました。

 また、ソビエト連邦崩壊後に独立したキルギスも、2017年に政府が有機農表発展のための6か年計画を発表し、100%オーガニック化をスローガンに、キルギスの農業や食品に対するブランドイメージ形成しようとしています。さらには、豊かな自然を売りにした観光開発にも力を入れており、エコフレンドリーなイメージを強化することで、観光業への波及効果を得ることも狙っているようです。

キルギスでは、アクションプランのスケジュール作られており、化学肥料や化学合成農薬、殺虫剤などの輸入・販売・使用の段階的な禁止に関する条項を含む、10年間での有機農業への完全な転換に向けた取り組みが行われています。また、有機農業および農産品の流通のためのロジスティックセンター建設や、有機農業およびその研究に携わる人材の育成、有機農業への普及啓発活動も並行して行われるといいます。

そんなブータンやキルギスと異なり、スリランカのゴタバヤ・ラージャパクサ大統領は選挙公約どおり、20215月に化学肥料の輸入禁止にしてしまったため、国内の農家はパニックになります。スリランカの農業では、化学肥料に対する長年の政府補助金で農業を推進していた背景や、地下水や土壌汚染など生態系の破壊や化学肥料の輸入量の増加が大きな問題になっていたため、化学肥料の輸入禁止という思いきった行動にでたのです。

化学肥料の輸入禁止発令以降は、化学物質の乱用によって引き起こされる農業従事者への健康被害、これにともなう医療費の上昇を抑えるのに効果があるとか、肥料の輸入に年間4億ドルが費やされていることから、化学肥料などの輸入を抑えることで、外貨流出が軽減されると思っていました。ところが、急激な有機化への方向転換の影響は大きく、国内産の有機肥料だけでは需要を満たすことができなくなったのです。

 そのため、スリランカの主要作物であるセイロン茶の品質が落ち、生産量も減少しはじめたことから、輸入禁止を一部解除することを1019日に発表しました。さらには、1130日には化学肥料、農薬、除草剤などの品目に課せられていた輸入制限を撤廃し、輸入を再開すると決めたのです。スリランカでは、コメ、紅茶、ゴムなどの主要農業を担う生産者の9割は、今まで化学肥料を使っており、いきなり今日から有機肥料を使いなさいと言われても、有機肥料を使った生産ノウハウもないでは無謀だったという訳です。

 コーヒー豆の生産現場においても、有機農業を進める農園は多くあります。そして、上記のようなことが産地においても状況が様々で、腐葉土や堆肥を用いた農業がベースにある所や無い所、そもそもホッタラカシなんてところも存在したりします。それを一括りにして「オーガニックだから」と有難がることに疑問も感じます。

 自然がいいとか、化学物質を入れず、田畑で農作物が自然に育った姿が一番いいという気持ちは理解できますが、そもそも農業は単一植物を集約的に栽培するという、極めて不自然な姿で行われるものだと思います。特別な環境を人が意図的に作りだすため、愛知県の明治用水の漏水問題が起きたりするのです。

 不自然な植物を食料にする人間に対して、害虫や雑草は自然淘汰の末に生き残った強者たちですから、その病害虫や雑草を退治するために必要な農薬を最小限度に抑えながら使用する管理農業も有りだと思うのです。 

でも、オーガニックで、安くて、美味しいコーヒー豆があったら買っちゃいますが。