価値連鎖

コーヒー豆の仕入れ価格が高騰し始めている中、先日、お客様から「仕入れ先を替えてみては?〇〇商事はどうよ。」なんてアドバイスをいただきました。確かに、現在の仕入れ先は確実に三割以上値上がりするようだし、新たな仕入れ先を考えるタイミングかもしれません。そこで、まめ蔵を開業から七年が経過したこともあり、この店を通じてお客様に提供している商品やサービス全体を改めて見つめ直し、顧客満足を生み出し一定の利益を創出するためには、どこに目を向けるべきか考えてみようと思います。

まめ蔵という店舗を経営していくためには、コーヒー豆を焙煎し、抽出したコーヒーをカップでお客様に提供することは欠くことができない基本的な活動です。こうした活動のことを「主活動」といいます。そして、主活動を細分化すると、「企画」「仕入れ」「店舗運営」「集客」「販売」「アフターサービス」といった流れになります。

 「企画」とは、まめ蔵を通じて何を提供するのかという基本的なことです。一定以上の品質である普通のコーヒー豆を普通の価格で提供することや、普通に美味しいと思えるコーヒーを店内で提供し、それに合ったスイーツも数種類用意します。同時に、年間を通じて安定的に提供できる商品と、スポット的に変化に富んだ商品を組み合わせることです。過去には、特定産地に絞った商品構成や精選方法の異なる商品に特化した品揃えも行いました。そうした企画を通じて、まめ蔵の価値を知っていただくことを考えました。

 そうした「企画」を実行するために、定番商品を安定して仕入れることや、スポット的に商品構成に加えることのできる個性的な商品の「仕入れ」が大切になってきます。現実的に安く仕入れることは重要なことですが、定番商品の内容がその都度変わるようでは、お客様としては毎回微妙に味が異なることになり、不安を招くことになりかねません。特に、定番商品に限って言えば「いつものコーヒー」という安心は、多少価格が高くなっても受け入れられる価値観を生みます。

 とはいうものの、まめ蔵の「店舗運営」は私一人で行っているため、能力も時間も限りがあります。店舗設計の段階から、カウンターから全ての客席の様子が確認でき、焙煎をしながらでも作業が可能なレイアウトにし、レジシステムも開業当時から導入してデータを蓄積し、客観的な数字を見ることが出来るようにしました。何よりも、松屋式という抽出方法を選択したのも、通常よりも長い蒸らしの時間が有効に利用できると判断したからです。結果的には、美味しいコーヒーを提供できる価値を生むことになったのですが。

 主活動の中で思い描いたものを形にするためには、お客様にご来店頂かないと意味がない訳で、一番難しいのが集客なのです。この集客に関しては全く行っていないといっても同然です。強いて言えば、ホームページの作成とブログの更新くらいでしょうか。タウン誌に広告を掲載するとか、何かの情報発信もしていないため、手抜きと言われてもしかたがありません。ただし、これには理由があり、お客様に「見つけた感」のある経験をしていただきたいという狙いがあるからです。ホームページを頻繁に更新していることから、珈琲屋を検索すると見つかることが多く、来店後の口コミで徐々にリピーターが増えていっている状態です。ただし、これには「見つけた感」を起こさせる、「感動」という価値の提供が必要なのですが。

 最終的にお客様へ商品を提供するのが「販売」です。注文しやすいメニュー表の作成や、購入しやすい価格設定はもちろんのこと、商品を選ぶ楽しさを提供する事も大切な価値を生み出す要素になります。自家焙煎珈琲店でよく見られる量り売りではなく、予め200gの袋に入れてものを棚に並べることで、自分で選んで取る楽しさを感じてもらえるよう常時十数種類の商品を準備しています。また、焙煎日を記入することで新鮮な豆を購入できた満足感を得られます。

 ただし、接客においては一人で行っている欠点も多く、一度に多数の方が来店された場合にお待たせすることもしばしばです。また、若い方と中高年の方々とは無意識のうちに接客態度が異なるようで、気分を害する方もあるかも知れません。

 「販売」した後は、そのお客様をリピーターとしてお迎えすることが大切です。そのために「アフターサービス」が必要になってきます。特に、コーヒー豆を購入されるお客様は、一定期間後には手元のコーヒー豆が無くなる訳ですから、定期的に再来店いただけるお客様になっていただけるかどうかはとても重要です。そのため、リピーターのお客様をデータとして登録し、過去の購入履歴をコーヒー豆の焙煎のタイミングに反映させたり、イベント案内の葉書を出したりしています。

 そのように、「主活動」の中で価値の創造をしていく訳ですが、継続的に行っていくためには個人の能力・意欲を高め維持していくことが求められます。長くダラダラ取り組んでも無駄が多く、効果的・効率的に行う事が必要であることは、サラリーマン時代から求められていたこともあって、自分一人で店舗運営をしていくうえで当初より一番の課題でした。組織であれば「支援活動」としての役割を誰かが担うことはあっても、一人親方のような体制では難しいのです。

 そこで、出来るだけ店から離れて同業他者に会うことを心がけたり、知識・スキルを上げるために各種セミナーに積極的に参加してきました。自分に無い物を持っている人に出会うことは貴重な体験になり、意欲を高めるキッカケとなります。

 まめ蔵を通して、自分の商品やサービスがどのような活動を経てお客さまに届いているのか、それらの活動はどのようなコストがかかり、どのようにお客さまに貢献する価値を生み出しているのか、そして、どの活動に対してコストに見合う資源を投入することが利益に繋がるか、そうした考え方を「価値連鎖」や「バリューチェーン」と言うのだそうです。 

 自分がこれまで行っている活動を俯瞰して見ることには意味があり、全体像を通じて価格改定や仕入れ先の変更を検討する材料になりました。ただし、これからは自分を見つめ直すことよりも、そもそも良いコーヒー生豆が手に入らないとか、物価高による消費行動の低下といった外的要因にさらされることになるかもしれません。まあ、悩んでも、なるようにしかならないのですがね。