困ったものです

先月、ニューヨークのコーヒー豆先物取引価格について、ロシアの影響で一時的に少し下がったと書きました。そして、予想通り3月中旬から再び上昇し、現在は高止まりの傾向が続いています。チャート図を見て分かるように、昨年からコーヒー豆の先物取引価格が急激に上昇しているのは、いくつかの要因があります。

 一つには、ブラジルでのコーヒー生産量が激減したことです。「100年ぶり」と言われる水不足に見舞われたうえに、一部地域では寒波による霜害(そうがい)の影響でコーヒーの木や実がダメージを受けていることから、2021年のアラビカ種の収穫量は過去12年間で最も少なくなるだろうと言われています。

 また、世界的なコーヒー需要の高まりがあります。特に中国を中心としたアジアの国々で消費が増えているため、体力のある輸入業者は、今の価格で買えるものを、買えるうちに買っておこうといった傾向にあります。のんびり選んでいれば、他国にさっと横からコーヒー豆を取っていかれるような状況ですから、まるで青田買いのように買い付けしているところもあるとか。そうなると、中には品質の良くないものも出回ってくるわけで、最近では、ハンドピックをしながら「欠点豆がめっちゃ多いじゃん!」と嘆くことになります。

 コロナ禍からの経済の回復を見越す形で世界的にエネルギー価格が上がり、輸送コストなども上昇していたところ、さらにロシアへの経済制裁でエネルギー価格が跳ね上がり、輸送コストは増えるばかりです。昨年から続くコーヒー豆の価格上昇は、まだまだ止まらないことが予想されます。

 コーヒー生産国にも変化がみられ、コーヒー豆があれば何でも売れると勘違いする所も出てきます。長年かけて美味しいコーヒーを作れば高く売れ、自分たちはより良い生活ができると手間暇掛けて作っていたのに、ラテン気質ののんびりな性格が再び裏目に出てきそうな状況もあります。

 そうかといえば、コーヒーの価格高騰により、長年価格の低迷で厳しい暮らしを強いられてきた生産者や国にとって喜ばしいと思い、がんばって生産量を増やそうとしたものの、ラニーニャ現象による長雨の影響で生産量が思うように増えず、苦戦を強いられているところもあります。

同時に、コーヒー生産者たちはコーヒーの価格高騰で収入は増えたものの、肥料や人件費の上昇、コーヒー豆を売りに行くための運搬コストも増加してしまい、単純に価格高騰を喜べない状況にあります。そのうえ、日本国内でも起きている食糧品や日用品の値上げもある訳ですから、生活はいつまでたっても楽にはならないのです。 

今後、世界の生産量の多くを占めるブラジルの生産量が回復すれば、過去に何度も経験した価格の暴落もあるかもしれません。ただし、ロシアによる侵攻がウクライナ以外にも及ぶことになれば、そもそも、悠長にコーヒーを飲んでいられなく時代がくるのかもしれませんが。まったくもって困ったものです。