のんびり行こうぜ

小学館『BEPAL』編集部のホームページに、カヌーイストの野田知佑氏の訃報が掲載されました。野田氏の事務所のコメントとして、「野田知佑が2022年3月27日、永眠いたしました。84歳でした。なお、葬儀は、新型コロナウイルス感染症の状況を鑑み、親族のみで執り行いました。これまでご愛読、応援いただいた読者の皆様、お世話になりました関係者の皆様に深く感謝申し上げます。」とあります。

BE-PAL』(ビーパル)は1981年に小学館より創刊されたアウトドア雑誌です。当時22歳だった私は、特に趣味があったわけではなく、なにげなく手に取って読んだ『BE-PAL』に刺激を受け、キャンプやスキーへとアウトドア生活にハマっていきます。創刊直後より雑誌の看板となる紀行エッセイ『のんびり行こうぜ』を連載していた、日本のカヌーイストの第一人者としての野田氏に憧れ、Pyranha製のカヤックを買ってしまい、長良川、木曽川、天竜川など、素人なのに川下りに挑戦したものでした。

結婚後は、冬には子供と共にスキーへ行き、夏には車のキャリアにカヤックを積んで川や人造湖近くへオートキャンプに出掛けました。子供の成長と共にアウトドア生活も少なくなり、同時に腰痛も発症するようになって、カヤックは知人に譲り渡してしまいます。今では考えられないくらい、室内でジッとしていられない生活だったのです。

ところが、今では店内で一日の大半を過ごし、後は自宅の中でおとなしくしている老人のような暮らしぶりです。まあ、確かに年齢的には還暦を過ぎている訳ですから、それなりの老人なのですが。それにしてもアウトドアとは無縁の生活に、自分でも驚いてしまいます。あの頃には、珈琲屋の爺さんになるとは想像もしていなかったからです。(この体型も)

憧れだった野田知佑氏のようには生きられませんでしたが、紀行エッセイ『のんびり行こうぜ』のように、ゆったりとした時間の使い方だけはしているかもしれません。カヌーのように川の流れに身を任せ、力まず、カヌーから見える景色のように、低い目線から眺められる生活をしていることだけが、『BEPAL』の読者だった頃から活かされているのかも。 

 これからも、「のんびり行こうぜ」