『エール』

今、見たい映画が一つあります。それは、現在上映中の『コーダ あいのうた』です。コーダCODA, Children of Deaf Adult/s)とは、聞こえない・聞こえにくい親を持つ子供のことを指します。両親とも聞こえなくても、どちらか一方の親だけが聞こえなくても、また親がろうあ者でも難聴者でも、聞こえる子供はコーダとされます。今回の映画は、その聞こえない親を持つ両親の子供を意味するコーダと、音楽のcodaである、楽曲の最後に曲全体を締めくくるためにつけられた部分のことと、二つの意味があるようです。

 その映画を観たくても、現在、まん延防止等重点措置の実施期間中であり、妻から人混みを避けるように厳重警告されている身では、残念ながら映画館で鑑賞することもままならないのです。そこで、『コーダ あいのうた』のリメイク前の作品である、フランス映画『エール』(2014年製作)をAmazonn prime videoで観ることにしました。

 映画『エール』は、ろうあ者の家族の中でただ一人健聴者の少女が、家族を助けることだけではなく「歌」という自分の才能を伸ばすため、音楽の腕を磨きながら四苦八苦する感動ストーリーといったところです。ろうあ者の家族に限らず、助けるということは家族の中では当たり前であり、お互い様でもあり無償の愛なのですが、それがやがて無理になることがあります。家族を持つ人は誰もが考えさせられるストーリーであり、いくら家族であっても個人の尊重は忘れてはならないという教訓だったりします。

そんな内容の中で、母親が酔って夫と娘の前で話した言葉が気になりました。『あなたが生まれて耳が聞こえると知った時、覚えてる?私はどれほど泣いたことか。育てる自信がなくて。でも、“心配するな”とパパが慰めてくれた。“この子はろうあ者の心を持っている、耳が悪いと思って育てよう。本当はろうあ者かもしれん。”なのに歌を歌うの?お次は牛乳アレルギーになったと言うつもり?』

 ろうあ者との関わりを持っている私ですが、聞こえる子供を持った時の複雑な気持ちが腑に落ちなくて、一人のコーダの方に尋ねてみました。すると、「私の場合は違ったけれど」と前置きしながら、現実に映画に登場する母親と同じような事例を語ってくれました。ろうあ者の置かれた環境にもよりますが、ろうあの世界を分かってくれるのだろうかという不安を持つのだと言います。

 同時に、そのコーダの方から、一ツ橋文芸教育振興会が主催する「全国高校生読書体験記コンクール」で、最優秀の「文部科学大臣賞」に選ばれた、筑波大学附属聴覚特別支援学校の3年生、奥田桂世さんの「聾者は障害者か?」を紹介されました。これを読んで、なんとなく腑に落ちたような気がします。 

 今回、『コーダ あいのうた』を観る前に『エール』を鑑賞しました。コロナ禍が収まった頃にはAmazonn prime videoで観られるでしょうから、しばらく待つことにします。