アンドリュー・ワイエス

 多治見市の現代陶芸美術館で開催中の、「アンドリュー・ワイエスと丸沼芸術の森コレクション展」(15日~314日)を観に行きました。埼玉県朝霞市で若手芸術家たちの制作活動支援を行っている「丸沼芸術の森」は、その優れたコレクションでも広く国内外に知られており、今回は、そのコレクションからアンドリュー・ワイエスの水彩・素描を中心とする絵画コレクションや、設立者の芸術志向のきっかけとなった陶芸コレクションが展示されています。 

 ただ、私が見たかのは加藤孝造をはじめとする現代の陶芸作品や村上隆や入江明日香らの作品ではなく、アンドリュー・ワイエスの作品というか習作の数々でした。ニューヨーク近代美術館所蔵する代表作の一つである、「クリスティーナの世界」(1948年)の習作をはじめとする習作群は丸沼芸術の森コレクションの主軸であり、作者の制作プロセスを如実に語る貴重な資料で、観る側の想像力を掻き立てるものとなるからです。 

 アンドリュー・ワイエスは小さな頃から虚弱だったため学校へは行かず、家庭教師から読み書きを学び、挿絵画家だった父親から絵画技法を習い、ほぼ独学で画家になりました。生地であるペンシルベニア州フィラデルフィア郊外のチャッズ・フォードという村と、別荘のあるメーン州クッシングの2つの場所以外、ほとんど旅行もせず他の場所には行ったことがなく、作品はほぼ全てをこの二つの場所の風景や人々を描いていることから、引きこもりの天才画家とも言われることもあります。何だかコロナ禍で半引きこもり状態の今だから、妙に観てみたくなったのかもしれません。 

 美術の教科書に出てくる「クリスティーナの世界」に登場するクリスティーナは、ワイエスの別荘の近くに住んでいたオルソン家の女性です。会場入口には、そのオルソン・ハウスの模型が展示されていました。病弱で孤独に育ったワイエスにとっては、ポリオで足が不自由なクリスティーナが、誰の助けも借りずに野原を這って我が家へ進む姿に自分にはない力強さを感じたのでしょうか。彼女との出会いの時からその死まで30年に亘ってこの女性を描き続けたようです。 

 現代陶芸美術館で陶芸作品を熱心に見ることもなく、アンドリュー・ワイエスの作品に浸った一時でした。