牛に引かれて善光寺参り

 「牛に引かれて善光寺参り」と言う言葉があります。思わぬ他人からの誘いで、物事がいい方に向かうことを表すことわざです。欲深い老婆が牛に布を取られて追いかけ、善光寺に到着し、信心深く変わって極楽往生を遂げたという、善光寺に伝わった昔話が由来となっています。 

 珈琲屋をやりはじめ、お客様から色々なイベントへのお誘いやお勧めの本などの紹介があります。そのおかげで、今までなら経験しなかった体験や新しい出会いがあり、セカンドライフが充実したものになっています。来年は丑年です。「牛に引かれて善光寺参り」という言葉を思い出し、物事がいい方に向かうことを信じて牛に引かれてみたいと思います。 

 そこで、善光寺と呼ばれる寺が隣町の駄知町にあることを知ったので、ちょっと出かけてきたのでした。その寺の名は瑞雲寺といい、開創は不詳のようですが、本尊に善光寺如来を祀ってあり、東濃善光寺と呼ばれているそうです。駄知町には他にも寺があり葬儀で行ったことがあったのですが、東濃善光寺と呼ばれる瑞雲寺の存在はしりませんでした。確かに分かりにくい場所にある小さな寺でしたが、来年の良い牛の導きを願って御参りしました。 

 善光寺といえば長野県長野市にある寺が日本で一番有名ですが、それ以外にも全国各地に善光寺はあり、その数200以上と言われています。岐阜県では五郎丸ポーズの大日如来で有名になった関善光寺の宗林寺、織田信長ゆかりの岐阜善光寺があります。 高名な開祖がいるわけでもなく、京都・奈良でも首都圏でもない地方のお寺がこれだけの参拝者を集め、全国各地に善光寺と言われる寺があるのには理由があるようです。 

善光寺とは聖(ひじり)のお寺です。聖とは、平たく言えばお寺の営業マンのことです。善光寺聖たちは、善光寺如来と聖徳太子信仰を2枚看板として、「善光寺まいり」をすれば、生きながら「あの世」へ行き、極楽往生を証明するご印文と血脈(けちみゃく)を頂戴できると全国にセールスして歩いたというのです。正規の寺院を離れて諸国を遊歴する僧侶によって、信州から遠く離れた地域にまで善光寺如来の分身を背負って出かけ、信仰を広げて回った結果が全国の善光寺という訳です。 

そもそも、極楽浄土や輪廻転生を信じない私には善光寺のご利益は無縁かも知れませんが、「牛に引かれて善光寺参り」といわれる、思わぬ他人からの誘いで、物事がいい方に向かうことだけは期待したいものです。