ピーベリーは甘い?

 定期的にコーヒー豆を購入されるお客様が、「ピーベリーってありますか?ピーベリーは甘いらしいので欲しいのですが。」なんて質問されました。ピーベリーは甘い?どこでそんな情報を得られたのか不明ですが、お客様のピーベリーに対する甘い期待を裏切るように、「当店にはピーベリーはございません。」とお答えしたしだいです。 

 コーヒー豆はコーヒーノキの果実に入っている種子です。通常、果実には2個の種子が入っていますが、種子が成長する過程で片方が成長できなくなり、残った1個が丸く育つことがあります。これを「ピーベリー」や「丸豆」と呼び、2個育った豆の接する面が平らな豆を「フラット・ビーン」とか「平豆」と呼びます。『コーヒーの科学』(著:旦部幸博)によれば、「ピーベリーはしばしば枝の先端など栄養が不足しがちな個所に生じ、品種によっては210%と頻度は異なりますが、どの樹にも一定の割合で見られます。」とあります。 

 お客様が言われたような「ピーベリーは甘いらしいので」といった情報については同著には記されておらず、「ピーベリーはその希少性から一般に平豆よりも高級品です。先述のように栄養不足の箇所に生じますが、2個分の栄養が1個に集中するので「帳消し」になり、成分的には平豆と大きな違いはないようです。」となっていました。ただ、丸い豆は焙煎時には均一に熱が入りやすいことや、希少性から売り易いと珈琲屋さんからは好まれているのは確かなようです。 

 確かに、コーヒー豆によって甘味を感じることはあります。品種による個性であったり、精選方法による香味からくる甘味や、焙煎の違いによっても甘味を感じることがあります。質問されたお客様にはその旨ご説明しましたが、「ピーベリーだからといって高く売れば利益率が上がるのですよ。」とは、さすがに言えませんでした。 

 そんな『コーヒーの科学』のウンチクばかりでは脇が甘いと言われてしまうので、ちょうどハンドピックをしていたエチオピアのコーヒー豆から、ピーベリーとフラット・ビーンを別けて淹れてみることにしました。抽出を終えた頃にコーヒー豆を買いに来たリピーターが来店されたので、声をかけて二人で試飲します。二人とも「甘みの違いはないけれど、ピーベリーのほうが少しマイルドかな?」といった印象でした。 

 では、コーヒーの甘味の正体とはいったい何なんでしょうか?その答えについて『コーヒーの科学』では、コーヒーに焦がし砂糖のように甘い香りを感じる正体をフラノン類だとしています。コーヒーには甘味を感じるだけのショ糖の量は少なく、複素環式化合物の一種であるフラノン類によって生じる風味としての甘味だと上手く説明がつくというのです。 

 フラノン類?こうなると、見たこともないフラノン類に頭を悩ますことになるので、いっそ『コーヒーの科学』をお客さんに渡しちゃおうか!自分を甘やかしてしまう店主はコーヒーより甘いのです。