朝が来る

 定休の月曜日は、いつもと違った環境に身を置くことにしています。店内で様々な人と出会うことができますが、珈琲屋の店主という立場は変わらないため、一個人として見たことのない景色を眺めたり感じたりするよう心がけているのです。もっとも、行き先はお客様からの情報だったり、自分が興味を持った場所になりがちなのですが、サラリーマン時代では行くこともなかった場所へ出かけることが多くなったように思います。 

 昨日も、朝から店に入って在庫の無くなったプリンとブラウニーを作り、その間に一種類だけコーヒー豆を焙煎します。その後、母親とともに掛かり付けの医院へ出かけ、買い物を済まして車を走らせていると、ラジオのパーソナリティーと映画監督のトークが始まりました。内容は先日公開が始まった『朝が来る』(監督:河瀬直美)でした。たぶん、いつもなら気にせず聞き流していたであろう作品でしたが、「エンドロールの最後まで見てください。」という監督の言葉が気になり、上映時間を確かめると間に合うことが分かったため、急遽映画館へ行くことにしました。 

 コロナ禍で映画館は閑散としているかと思いきや、劇場版『鬼滅の刃』無限列車編が人気だそうで、思った以上に家族連れが目立ちます。私が見る『朝が来る』はというと、受付端末を見ると5名の入場予定しかありませんでした。これなら充分ソーシャルディスタンスは確保できます。しかし、「鬼滅の刃 」が人気なのがよくわかりません。私には全く興味が湧かないのです。 

 映画の内容をかい摘むと、「子供に恵まれなかった栗原佐都子(永作博美)と夫の清和(井浦新)は、特別養子縁組の制度を通じて男児を家族に迎える。それから6年、朝斗と名付けた息子の成長を見守る夫妻は平穏な毎日を過ごしていた。ある日、朝斗の生みの母親で片倉ひかりと名乗る女性(蒔田彩珠)から「子供を返してほしい」という電話がかかってくる。」といったものです。 

 映像が流れ始めて直ぐに重苦しい気分になり、なんだか退出したい気分になってしまいました。思い直してしばらくすると、まるでドキュメンタリーを見ているような感覚になり、自分だったらという気持ちが芽生えます。生みの親の家族、育ての親、二つを繋ぐ人の立場、どれも悩ましくって、それでいて共感できる、さらに切ない気持ちも。そして、エンドロールを最後まで見た頃に、育てられた子供が発する言葉にホッとされました。 

 たまには、こんな時間の使い方も悪くないものです。