よくわからない発酵

 お店で扱うコーヒー豆の選択は、産地、品種、精選方法を考えながら、商品構成のバランスを考えています。また、短期的なスポット商品として自分が気になる豆を選び、経験の幅を広げるように心掛けており、精選方法に特徴のある豆が気になって、ついつい取り寄せているのが実態です。 

 コーヒーの実の果肉を取り除いて水洗いしたウオッシュド、コーヒー実をそのまま天日乾燥させたナチュラル、コーヒーの木の上で干しブドウのような状態になったもの収穫するドライオンツリー、果肉を一部残したパルプドナチュラルやハニーといわれるもの、中には、ゆっくり乾燥させるスタティックボックスといったものまで、色々なものをお客様に提供してきました。 

 昨年9月には、ブラジルのダテーラ農園で取り組まれている、エアロビック・アナロビックといった、味わいの多様性を産み出すプロセスのコーヒーをカッピングし、精選過程の発酵時に様々な実験的な取り組みをする話を聞いて驚いたものです。正直、後から様々な香味を加えるフレーバーコーヒーとの明確な区別が分からないほど、なんでもありの状態です。 

 先日、あるツイッター上に、SCASpecialty Coffee Association)のテクニカル・ディレクターであるマリオ・フェルナンデスのレポートのリンクが貼ってありました。彼はそのレポートの中で、精選されるコーヒー豆の定義、個々の性質やその純度について議論して、一定の線引きが必要なのかもしれないと言っています。 

 例えば、ビールの本場であるドイツでは「大麦麦芽、ホップ、酵母、水のみを使用して発酵させたものをビールとする」とありますが、アメリカでは麦芽以外に米、穀物、ふすま、ブドウ糖、砂糖、糖蜜のほか、香料なども使用されています。それと同様に、コーヒーの場合、焙煎チコリ、焙煎大麦、あるいは焙煎ひよこ豆などのコーヒーの代替品を使った製品を「コーヒー」と呼ぶのかという議論に始まり、現在、多くの農園で試験的に行われている発酵過程にも言及しています。 

 彼の表現を使用すれば、 

Extended or intense fermentation:長時間発酵、または強烈な発酵 

Microbial starters:微生物スターター 

Fermentation adjuncts:発酵補助剤 

Flavoring agents-before drying:乾燥前の香味付 

Flavoring agents-during or after drying:乾燥中又は乾燥後の香味付 

 といった区分がされており、なるほどと思えると同時に、ワインの発酵処理にも通じるものだと改めて感じます。 

 ただ、こうしたコーヒー豆という製品に付加価値を与えるための公正なイノベーションと、明らかな不純物混入との間の線引きについて、業界の喫緊の課題であると言いながら、結局は市場にその判断を委ねてしまっているようです。「彼らは革新者の味方をするのか、純粋主義者の味方をするのか。」などといっても、市場は金になるかどうかでしか判断しないのだから、作る側にも意図的に行っている以上、責任があるのではないかと思ってしまうのです。