高千穂の夜神楽

 九州旅行での宿泊地は高千穂でした。高千穂峡、天岩戸神社、高千穂神社と多くの名所がある中、夕食後には宿泊先から歩いて数分の場所にある、高千穂神社へ夜神楽を見に行きます。

 高千穂に伝承される夜神楽は、「高千穂の夜神楽」として国の重要無形民俗文化財に指定されており、天照大神が天岩戸にお隠れになった際に、岩戸の前で、天鈿女命(あめのうずめのみこと)が舞ったのが始まりと伝えられるものです。

 古くからこの地方に伝承され、秋の実りへの感謝と翌年の豊穣を祈願し、11月中旬から2月上旬にかけて三十三番の神楽があちこちの神楽宿で奉納されていましたが、今では高千穂神社境内の神楽殿で、毎晩20時より1時間、三十三番の神楽の中から代表的な4「手力雄の舞」「鈿女の舞」「戸取の舞」「御神体の舞」を公開されているのです。

 受付開始の午後7時半ごろ出かけたので、会場にはまだ数組しか訪れる人の姿はなく、「こんなものか?」と思っていたら、開演前には会場に入りきれないほどの人が集まります。すると、斜め前に座る高級カメラを握る老人が、「神楽には、島根県西部の石見地方や広島県北西部の安芸地方で行われている石見神楽。岡山県の備中地方を中心で行われている備中神楽が有名だけど、ここの神楽もいいよ!」と隣の男性に話しかけいます。「へー。確かにテレビで石見神楽の映像を見たことあるな。」などと思い出しながら、安くて画像の粗いデジカメを準備します。

 神楽(かぐら)という名前の由来については諸説ありますが、古代においては「神座(かむくら)」、つまり神様が宿る場所という意味で使われていた言葉が、徐々に変化したものではないかという説が有力のようです。

 この神がいる場所というのは、踊り手の前にある神壇のことを指したり、踊り手そのものに乗り移って人々と交流するなど、神人一体の宴の場であり、そこでの歌舞が神楽と呼ばれるようになったようです。古事記・日本書紀の岩戸隠れの段で天鈿女命が舞った舞が神楽の起源とされるようなので、この高千穂の地で神楽を見るわけですから、その時代にタイムスリップしたようなものです。

 そんな神秘な世界観を楽しんでいたものの、「天岩戸神社」ってのは、西日本の多くに存在するではないですか。いったいどうなってるんだろうと戸惑いながら、「御神体の舞」で、女神に抱きつかれた時のことを思い出しながら、神秘な日本の歴史を垣間見たのでした。