諸説あります

 2020年には、明智光秀が主人公のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」が放送される予定となっています。これを契機に、岐阜県と地元市町、観光協会等が連携して各種プロモーションを実施するため、行政、観光関連団体による「岐阜県大河ドラマ『麒麟がくる』推進協議会」が設立されました。

 県では誘客事業業務委託のためのプロポーザル(企画提案)参加事業者を、委託費上限700万円で募集し、複数回にわたり推進協議の場が持たれています。そこでは、具体的なプランとして、岐阜市の岐阜公園内に明智光秀だけでなく、斎藤道三や織田信長との関わりを表現した展示施設の設置。可児市では明智光秀生誕の地である「明智庄」にあり、近くには居城であった「明智城跡」近くの花フェスタ記念公園に、明智光秀の生涯をたどる展示施設を設置。恵那市の日本大正村には、明智光秀×東美濃の山城をコンセプトにした施設と、いわゆる「大河ドラマ館」の設置が検討されています。

 他にも、恵那市と中津川市を運行する明知鉄道の車両に「明智光秀ゆかりの地恵那市」をテーマとしたデザインのラッピング列車を走らせる計画もあり、朝ドラで岩村町が全国的な観光名所になったように、ドラマに便乗しようと熱心な活動がされているようです。

 地元土岐市でも、明智光秀ゆかりの地としてパンフレットサンプルに取り上げられているのが、「高山城跡」と「妻木城跡」です。「高山城跡」は、光秀の源流、土岐源氏の館を防御するため、館を見下ろせる高台に碧を築いたのが、土岐高山城の始まりと考えられている。とあり、「妻木城跡」は、光秀の正室、妻木城を本拠とした土岐明智氏の女性、熙子(ひろこ)であったと言われている。となっています。

 よくよく見ると、このパンフレットには「という伝承がある。」「とされている。」「伝えられる。」「逸話がある。」「考えられている。」「言われている。」のオンパレードであり、意外に不確実な情報だったりします。しかし、こうした文字になってしまうと読み手にとっては事実として受け取られることになります。史実には明らかにならない部分が多いものですが、テレビや印刷物を見た人によっては誤った情報が事実になることもあり、何だかどこかの国を見ているようです。

 地元の郷土史研究にも関わったこともあるお客様に尋ねたところ、早く記録に残した所が優先される風潮があり、ある意味「言ったもん勝ち」的な面もあるようで、某有名教授が言ったとか、某有名館長が認めたとかで歴史的価値が左右されることもあり、まさに「歴史は作られる」んだとか。不明な部分は不明のままであったほうが、逆にロマンがあると思うのですが。

 コーヒー業界にも地域性を出す意味もあってか、「藩士の珈琲」「源内珈琲」「徳川将軍珈琲」などが販売されています。具体的な史実に基づいたものか微妙なものあるものの、先ほどの話ではないですが、「やったもん勝ち」的な空気もあるとも聞いています。地域を盛り上げようという意図は理解できるものの、歴史的な解釈まで歪曲してしまうようで違和感を覚えます。

 そうした曖昧な部分については、「チコちゃんに叱られる」の最後に流れるテロップのように、正直に「諸説あります。」と言えばいいのにと思うのでした。