エチオピア商品取引所「ECX」

  昨晩行われたセミナー講師のレポートを読むと、それまでオークションを中心にして実施されていたコーヒーの取引は、2008 年にエチオピア商品取引所「ECX」(Ethiopia Commodity Exchange)が開設され、コーヒーの他にトウモロコシやインゲンマメ、コムギ、ゴマなどエチオピアで生産される農産物を扱うようになったそうです。その経緯は、2000 年代初頭のコーヒー危機を教訓にして、その取引価格の乱高下をおさえることをおもな目的に開設されました。けれど、ECX がすべての問題を解決したわけではなく、ニューヨークのコーヒー先物価格が急騰してもエチオピアでの取引価格が同じように連動しないとか、時間がかかる流通システムや不安定な品質が指摘されています。
 こうしたECXが適切に機能しない理由を知りたいと、このECXの生みの親でもあるEleni Zaude GabreMadhin(元世銀エコノミストのエチオピア人)のTED(2007年)でのプレゼンを見ることにしました。このプレゼンで、彼女はECXがあれば、エチオピアの食糧危機や農民の生活向上に貢献できると説明しており、次のように話しています。
 「アフリカの市場経済が貧弱な理由は、道路や電話回線などのインフラが無いだけでなく、必要とされる市場の仕組み自体が存在せず、市場情報や評価や基準など確実に売り手と買い手とをつなげる方法が無いためです。このため小規模な取引しか成り立たず、商品売買は個人的な知人や信用できる仲間内に限られます。また、これを理由に商品が生産者から消費者に届くまで約4~5人の手をめぐり渡るだけでなく、そのたびに、その袋が変わるのです。人々はこうすることでしか品物の質や量を見定めることができないのです。そして、そのことは商品不足や価格変動のサインに早く気づき対応できるという、市場の能力に大きく影響しますし、価格そのものに反映されます。商品の基準や市場情報がなかったりで、繰り返し袋を変えなければならず、結果的に手数料がかさみます。」
 そして、「ECXとはエチオピアのための商品取引所。参加する人々が恩恵を受けられる場所となり、健全で信用できる効率的で透明性のある仕組みが生まれ、小規模農家がリスクに対応できるようになります。」と理想を掲げていましたが、現実には問題点山積の組織となったようです。講師の方は、一度解体するくらいでないと修復できないと思っていること、再びオークションを中心としたものにもどるのではないかと語っていました。
 農業に対する国の管理というと、なんだか日本でも聞いたことがある気もしますが、エチオピアでは、国内生産量の約96%を占めると言われる輸出用コモディティコーヒーを9つの主要生産地(Yirgachefe、Sidama、Jimma、Harar、Limmu、Kaffa、Tepi、Bebeka、Lekempti)に分け、品質を国が管理し、産地内でのブレンドによる品質の平準化で国が品質や価格をコントロールするということにありました。僅かなスペシャルティコーヒーの流通を促すことより、96%の一般流通品コーヒー市場を守り価格を上げることが目的だったのです。けれど、消費国からは、トレサビリティーの不明確な商品としてブランドイメージを落とすことになったのです。
 さらに、ECXの運営する国が取引所の維持、精製所、各種研究施設を運営する費用にあてるため、ピンハネしているといった話や、許認可上の利権と癒着で大部分が権力者や資本家に流れているらしいといった話が出てくるところをみると、ますます何処かの国を連想してしまいます。理想と現実は世界共通のようです。
 ECXの今後も気になるところですが、エチオピアの歴史も興味が沸いてきました。何か良い本でもないか探してみましょうか。

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コメント: 2
  • #1

    帰山人 (月曜日, 17 12月 2018 02:19)

    そもそもスターバックスがイルガチェフェを自社のスペシャルブランド化しようとムチャな買い付けに動かなければ、エチオピア政府はこれを商標化しようとはしなかったでしょう。商標化に反対していたスタバが研究助成を名目に多額のカネを和解金として払わなければ、エチオピア政府はECXを設立できなかったでしょう。ECXが表向きの話通りに機能していれば、イルガチェフェ地区を倍ほどに拡げて認定することにしたり、シダモを再分割してグジのような新たなブランドを掲げることもなかったでしょう。
    しかしながら、この間の推移を記事にまとめて追っていたのは日本ではキサンジンという人だけだったような気がします。その頃、日本のコーヒー屋が騒いでいたのは、商標でもなくECXでもなく、残留農薬問題ばかりでした。でも、騒動を起こしたスタバがいなければ、日本のコーヒー屋がこぞって使うイルガチェフェという名のコーヒー豆はなかったかもしれない。スタバがエチオピアと和解する時に代わりに新たなアフリカ戦略として注力したブルンジやルワンダのコーヒーも人知れず、今のように日本に入ってくることはなかったかもしれない。「今さらかよ」…これが日本の多くのコーヒー屋さんに対するキサンジンの本音です。

  • #2

    まめ蔵 (月曜日, 17 12月 2018 06:49)

    今さらながら、過去記事を読ませてもらいました。開業前にも読んだはずの記事内容も理解できないまま今日に至り、今回のセミナーをキッカケに、今さら疑問に感じた事柄を理解しようとしているしだいです。今日からはエチオピアのコーヒーが少し苦味が強く感じるかもしれません。今さらですが。