物理学で迫る「コーヒーのおいしさ」の仕組み

 珈琲狂からコーヒーに関する資料のコピーをいただいた。それは、応用物理学会が発行する機関誌「応用物理Vol87 2018年10月号」であり、その中に寄稿されている旦部幸博氏の文章でした。旦部幸博氏といえば、滋賀医科大学微生物感染学部門助教であり、微生物と癌の研究のかたわら、コーヒー好きが高じて学際的な文献調査と情報収集を行い、コーヒーホームページ「百珈苑」を運営し、「コーヒー科学」「珈琲の世界史」などの著者でもあります。
 今回寄稿された内容のタイトルは、『物理学で迫る「コーヒーのおいしさ」の仕組み』です。微生物感染症学の研究者がコーヒーを通し、コーヒーのおいしさの基となる味や香りが生まれる過程に、物理学が大きく関わっていることを解いていきます。
 焙煎の度合いによる界面活性成分の量の違いや、その界面活性成分によって抽出過程にできる液滴の現象を「マランゴニ浮揚」と呼ばれる原理で説明したり、コーヒーカップに注がれたコーヒーの上に浮かぶ「もや」の正体と壊れる現象の謎解きがされます。
 また、テーブルに1滴こぼしたコーヒー液が、縁の部分だけ濃くなってリング状に乾く現象が「コーヒーリング効果」と呼ばれており、その原理がインクジェットプリンターの改善に利用されているなど、「コーヒー」と名が付くとなんだか嬉しくなります。
 コーヒー豆は植物であり、当然のごとく生物学(植物学)という視点で見てしまいがちですが、焙煎という加熱処理による物理的変化については、焙煎過程を細かく具体的に説明がされており、焙煎時に色や香りを生み出す細胞壁の1つひとつを「反応炉」と表現するが面白いし、分かりやすい。そのミクロの反応炉で起きている現象を、「煮立ってシチューのように混ざり合い」や「細胞内のどろどろによって細胞間の通路も塞がれ」といった表現が映像を見ているようで楽しい。
 冒頭に書かれていましたが、身近な現象の中から物理学のタネを見いだす「ネタ」が詰まっています。応用物理学会の機関誌だけに公開されているのがモッタイナイ!