記憶に残る食べ物

 日曜日の夜にテレビを見ていると、「未来に残したい食べ物」について著名人が語っています。その中には「おふくろの味」ってのがあり、妻に「子供たちは何をおふくろの味だと感じているのかな?」などと話したものの、未来に残したいような食べ物は特に思いつきません。けれど、社会人になって初めて食べた物で、「世の中にはこんなに美味しいものがあるんだ!」と感じた記憶が蘇り、何だか急に食べたくなってきたため、定休日のお昼に出かけることにしたのです。
 社会人になって最初に勤務した場所は名古屋市名東区。休日になると名駅の地下街を歩いては映画を見たり、田舎には無かったあんかけスパや味噌煮込みうどんを食べたものです。そのなある日、毎日ビルの地下で映画を見た後に立ち寄ったインドカレーの店「タンドゥール」のカレーを食べ、香り立つスパイシーカレーに魅了されたのでした。それまでのドロドロしたカレーには無かった食感と香辛料がじわじわと口に残る味、カレーポットと金属の皿が田舎者の私には「都会のカレーや!」と病みつきになったものです。
 転勤によって名古屋を離れてからは食べに行くことも無かったのうえに、その間に毎日ビルが取り壊されてしまい何処へ移転したかもわかりませんでした。今回、事前に検索する際に、期待を込めて「名古屋地下街 カレー」で入力すると、「タンドゥール」という店名が出てきました。現在はミヤコ地下街の一角で営業しているようです。
 普段から名古屋駅周辺を歩かない私には、ミヤコ地下街自体がどこにあるのか分かりませんので、事前に地図を書いたメモを頼りに歩きます。すると、昔の頃のイメージとは違うものの、以前と変わらぬカウンター席のみの店内で、女性一人が切り盛りしています。メニューも超シンプルなままで、甘口、中辛、辛口。カウンターに座ると、「辛さは?」という一言のみ。中辛を頼むと直ぐに、温めたカレーをカレーポットに入れて出してくれます。これも以前と変わりません。ライスはターメリックライスが残っているというので、ターメリックライスと白米の2種類を皿に盛ってもらいました。
 カレーのお供の福神漬けがカウンターのポットに入っていましたが、以前に食べた時は、福神漬、らっきょう、青じその実しょうゆ漬けの3種類だった記憶なので、少しばかり残念な気分です。特に青じその実しょうゆ漬けの記憶が鮮明なのは、福神漬くらいしたカレーのお供に食したことがなかったので、「こんなに美味しいものがあるんだ!」と驚いたものでした。
 会計の際に、「約40年ぶりに食べに来ました。」と話すと、「なら、開店して直ぐにの頃にお見えになったんですね。」と言われ、あの頃に女性一人で切り盛りしていた人が、目の前の年齢を重ねた女性なのかと感慨深いものがありました。自分も年を取ったものです。