見る目が変わる

 今年も我が家のお風呂場の窓に姿を現したヤモリです。ヤモリは、日本では昔から家に住み着いて害虫などを食ってくれるので「家守」とか「守宮」などと書かれ、家の戸袋などの隙間を住みかにしていて、日が暮れる頃になると灯りに集まる虫などを狙ってごそごそと出てきます。そのガラス窓を歩く姿から、足に強力な吸盤が付いているのかと思っていましたが、どうも認識が誤っていたようです。

 ヤモリの接着の仕組みは2000年に科学誌Natureで発表されており、電子顕微鏡でヤモリの指先を観察すると、足の裏には吸盤ではなく細かな毛が50万本も密生しており、さらにその先端が1001000本程度に分岐し、さらにそれらの先端のそれぞれは直径200ナノメートル程のスパチュラ(へら型)になっている、という超細密構造が判明しました。この細かなスパチュラ構造により、分子同士が吸着しあうときに発生する引力(ファンデルワールス力)と同じ作用を生じさせるのだそうです。(よくわからない。)

 ファンデルワールス力(Van der Waals force)とは、電荷を持たない中性の原子/分子間で働く凝集(吸引)力の総称で、気体が冷えて液体や固体になるのもこの凝縮力が作用するため。つまりヤモリは、カエルが吸盤で接着面の内側に真空を作り出したり、カタツムリやナメクジなどが粘液分泌で吸着する方法とはまったく異なる、分子レベルのハイテク能力で壁やガラスに吸着しているのです。(少しわかったような。)

 なんだか、ヤモリを見る目が急に変わってくるから不思議です。コーヒーにも意外に知られていないこともあり、先日、公民館講座で使用したサイフォンも、欧米ではvacuum coffee makerという名称で呼ばれています。siphonでは通じないのです。

 サイフォンという名称は、珈琲サイフォン株式会社の初代社長 河野彬によりガラス製コーヒー器具が考案され、商品名「河野式茶琲サイフオン」として販売を開始されたのが始まりのようです。河野彬さんは、もともとは医学部助手をし、海外委託生として、医療品などの販売で活躍をしていましたが、コーヒー好きの河野さんにとって、シンガポールでの珈琲は美味しくなく、それなら自分で器具を作ろうと器具の開発へつながったようです。そして、珈琲サイフォンが日本で初めて売られたのは、昭和2年日本橋のデパートで実演販売だというのが、珈琲サイフォン株式会社のホームページに記されています。

 昭和世代には、「バキューム」という言葉にコーヒーと異なる匂いを感じそうで、ちょっとビミョーな気がしてサイフォンを見る目が変わりそう。