ある写真集

  泉陶磁器工業組合の人に頼んでおいた写真集が届きました。これは、2016年11月に定林寺公民館(土岐市泉町定林寺)において行われた、「昭和の光と影-父が遺(のこ)した写真展-」において展示した物を写真集として、今年4月1日に自費出版されたものです。

 掲載されている写真は、定林寺で製陶業を営んでいた、故・水野保平さん(享年98歳)が、昭和10年ごろから昭和20年ごろまで撮り続けたものです。カメラが趣味で、定林寺を中心に、東濃西部3市の名所・行事などを収められており、記念写真だけではなく街並みや風習なども写してあり、当時の世相が伝わってくる内容になっています。

 2年前に、水野保平さんの長男、水野正弘さんが、父親の遺品を整理したところ、約900コマのネガが出て来たそうで、そのネガをスキャナーで読み取りデジタル化し、さらに、ゴミや汚れなどをパソコンで修復されたようです。写真集は泉陶磁器工業組合で販売されているため、コーヒー豆を購入されるお客様で同所に働く方へ事前に依頼しておいたのです。
 私がサラリーマン時代に12年間ほど定林寺地区で働いていたこともあり、昔の風景がどのようなものか興味があったのですが、意外にも土岐市外の写真も多く掲載されているので、カウンターに座る年配のお客様にも「懐かしい風景を見て思い出しました。」と好評でした。私自身も「あの橋!」「あの建物!」と現在と一致する物もあるものの、その周りの風景は全く異なり、時代の大きな隔たりを感じます。懐かしさよりも、むしろ戦前の昭和という時代をタイムマシンで垣間見たような気がしました。
 多くの写真の中で特に興味を持ったものが、「喫茶ブラジル」という写真です。説明文によれば、「土岐津駅前にブラジルという喫茶店があった。当時珍しいコーヒーが飲めた。昭和10年頃の中央線沿線に喫茶店は、多治見にあったくらいだった。陶磁器の輸出が盛んになり外国のバイヤーとの商談に使われていたと経営者のご子息である宮向井隆氏、勝氏の両氏は懐かしく語っておられた。昭和30年頃にパチンコ店にかわった。」とあります。
 店内の写真には消防団と警察官らしい3人が写っていますが、その上にはメニューが貼られ、「フルーツミツ豆 15円」というのが読めます。残念ながらコーヒーの値段は分からないものの、こんな田舎町にも陶磁器の輸出で栄えた歴史によって、喫茶店でコーヒーを飲んでいたことを知るのでした。
 ちなみに、写真集の在庫はまだあるそうで、泉陶磁器工業組合で販売されています。(価格は2,000円)