無料で鑑賞する贅沢な時間

 文科省の社会教育調査による美術館数ランキングによれば、全国にある美術館の総数は1,101軒で、人口10万人あたり0.87軒の美術館があることになっています。人口10万人あたり美術館数が最も多いのは長野県で4.92軒と、全国平均の5倍以上とダントツに1位です。総数ベースで見ても長野県の107軒は全国最多で、日本の美術館の約10%が長野県に集中していることになっています。ちなみに、岐阜県は第9位の34軒で、人口10万人あたり1.62軒となり、25位の東京でも0.79軒、40位の愛知県が0.52軒と比べてみると、美術を鑑賞するには環境が良いことになっています。
 今回訪れたのは、そうした県内の美術館のひとつ「とうしん美濃陶芸美術館」で、「喫茶文化美濃 カップ&ソーサーの歴史」を見に行きました。東濃信用金庫が運営する美術館とあって、入場無料という環境なのだから、さぞかし賑わっているのかと思いきや、祝日だというのに入館者は私一人という状況で寂しい限りでした。おかげで学芸員の方にマンツーマンで解説いただくという、めったにない恵まれた状況で鑑賞することができました。
 あらかじめ予習した西浦焼きを始めとする、明治初期からの海外輸出向けのカップ&ソーサーを見ながら、美濃で焼かれた明治から昭和の海外向け作品を見るのですが、その多くが個人所蔵であり、窯元で保存されていた作品がほとんどないことに驚きました。廃業した窯元が多いのもあるでしょうが、有名な幸兵衛窯であっても昔の作品は残っておらず、「売れるものは全て売りつくす」といった商売に徹したおかげで、後世に残すべき物がないことに寂しさを覚えます。確かに、昔は窯出しの際に商人が窯の前に集まり、窯から出す商品をその場で一つ残らず買い取っていったという話を聞いており、本当に全て金にしていたんだと実感しました。
 「とうしん美濃陶芸美術館」を後にし次に向かった先は、多治見市本町オリベストリートの「陶都創造館」です。ここは、少し前まで「たじみ創造館」として運営されていましたが、多治見市が多治見陶磁器卸商業協同組合に譲渡し、「陶都創造館」としてリニューアルオープンしたばかりです。そこの3階に新設された、地元商人や美濃焼の歴史を紹介する博物館「多治見商人物語」が目玉ということで、「第1回企画展 明治150年 西浦家の陶業」を見て、西浦焼きの誕生した経緯や衰退の歴史を確かめます。
 ここも入場料無料ながら見学者は私一人です。ここのホームページに掲載された内容を実物などで確認できるのですが、焼き物として展示されている作品は少なく残念でしたが、貴重な資料を見ながら美濃から世界に羽ばたいた歴史を見ると、なんだかワクワクしてきます。

 展示ブースの奥にもギャラリーがあるので、ちょっとばかり覗いてみると、そこには、東濃地方などを舞台に放映されている朝ドラ「半分、青い。」を焼き物を通して応援する企画展、「やきものの現在(いま) 青き精神(ココロ)のカタチ」が行われていました。

 この展示は、多治見市陶磁器意匠研究所の研究生とOBの若手陶芸家計40人が153点を出品したもので、5種類の青色の釉薬を塗り分けたグラデーションが美しいオブジェのほか、焼成した後に釉薬をはがして、地中から掘り出した遺物のような質感を出した作品などが並びます。でも、これって「半分、青い。」とどうリンクしているの?って感じてしまいました。

 無料で鑑賞する贅沢な時間を過ごしたものの、美術館の数に比例して芸術に関心のある人々が多い訳ではないと、複雑な思いで帰路に着いたのでした。