誘われて

 街の中を車で走っていると、公園や河川の土手には桜が満開です。土岐市には桜が咲く公園はあるものの、桜の名所といわれるような場所は無く、花見といえば多治見市の虎渓山にある「虎渓公園」へ行くといったところでしょうか。

 そんな訳で、買い物ついでに虎渓公園に行ったものの、平日なのに駐車場がいっぱいで留められません。桜を見ながら豆腐田楽でも食べようかと思っていたのですが、残念ながら諦めるしかありませんでした。そこで、思い出したように可児市兼山の『蘭丸ふる里の森』へ向かいます。

 ここは、飛騨木曽川国定公園の美しい渓谷を望む国史跡「美濃金山城跡」の麓にあり、自然林を生かした散歩道を囲むように千本桜が咲き誇っています。この町の人に聞いた覚えでは、町内の人が植樹に参加して「私の桜はこの木です。」といって話してくれた記憶があります。

 この日は桜まつりが行われており、弁当や飲み物が販売されていたものの、暑さのせいか売れ行きが悪いと嘆く声が聞こえます。春休み期間中とあって子供連れが多いのかと思えば、意外にも、高齢者のグループや介護施設のお花見行事らしい団体が目につきました。

 織田信長の小姓として有名な森蘭丸は、この兼山町で生まれ育ち18歳で金山城主になりました。織田・豊臣政権下で東美濃支配拠点としての役割をしたその場所からの眺めは、遠い戦国時代に思いを馳せることもできます。そう思って、町内にある兼山歴史民俗資料館に立ち寄ろうとしたところ、耐震診断で大地震が発生した際に倒壊する可能性が高いと診断されたとかで、一時休館となって覗くことができません。

 せっかくなので、元同僚の墓参りでも久しぶりに行こうかと車を走らせることに。珈琲屋を開業してから一度も来ていませんでしたが、墓標を前にすると十七回忌の真新しい塔婆があります。「もう十七回忌になるんだ!」と思いつつ、桜の咲くころに亡くなった彼に誘われたような気分になりました。素敵な同僚であった彼から「珈琲屋はどうよ?」って聞かれたようで、「ボチボチだよ。」と答えて帰ったしだいです。