エルサルバドルの内戦(2)

 映画を通じてエルサルバドルの内戦を見ましたが、終始暗い気持ちになってしまいます。幼い少年の顔と可愛い声を聞くたび、兵士となっていく様に心が傷んでしまうのです。そんな訳で、今回は休憩しながら読める書籍にしてみました。
 コーヒー生産国の多くが内戦を経験しています。いや、現在もなお続いているというのが正しいかもしれません。その内戦の現実を長年に渡って記録しているのが『ヘスースとフランシスコ』- エル・サルバドル内戦を生きぬいて-(著者:長倉洋海 出版:福音館書店)です。
 フォトジャーナリストと活躍している長倉洋海氏が、駆け出しの頃であるフリーランスになりたての頃に飛び込んだ場所、それが内戦真っただ中の中米エル・サルバドルでした。アメリカの支援を受けた政府とゲリラ側との戦いは、多くの国内難民を生みます。そんな人たちが暮らす難民キャンプで、著者は子供たちにカメラを向ける中で、ひとりの少女ヘスースに出会います。
 スペイン語で「キリスト」を意味する名を持つ少女は、1歳から難民キャンプで暮らしていました。その出会いをきっかけに数年おきにエル・サルバドルを訪問し、著者とヘスースとの20年に渡る交流を通して、内戦の犠牲になりながらも優しく、逞しく生きる人々の姿を描いています。

 漢字にルビを振ってあるので小学生高学年以上向けなのでしょうが、子供たちに理解してもらえるのだろうかと、よけいな心配をしながら読み進めます。20年間に渡る写真には悲しい物も含まれますが、ヘスースの笑顔に救われることもあって、まるで離れて住む親にでもなったようで、成長していく様が楽しみになる不思議な気分。

 著者が以前に写真を撮らせてもらった子供たちの消息をたずねる場面では、ビリヤード場で出会った美しい少年カルロスが、窃盗で刑務所に収監された後に亡くなり、食事をおごった物乞いの少年ラモスは、成長したのちも物乞いを続けていました。内戦の一番の犠牲者は、いつも弱い人たちという現実があり、そんな中にあっても、理不尽な環境の中で必死に生きようとしている姿も描かれています。
 映画『イノセント・ボイス 12歳の戦場』では内戦終結まで描かれていなかったため、ただ暗い気持ちのままでしたが、本書では内戦終結の人々の暮らしぶりも明らかになります。汚職や犯罪が絶えない中でも、戦争の無い生活を得たヘスースに著者が「幸せって何だと思う?」と尋ねます。それに対してヘスースは、「たとえ貧しくても、何か問題が起きたとき、家族で話し合って解決できることがすばらしい。家族や友だちのことで、祈らなければならないようなことが起きないことが幸せ。何も問題が起こらずに平穏な日々が続くのが、何よりも幸せだと思う。」と答えます。忘れないようにしたいものです。

 個人的には、先日、次女の0歳から20歳までの撮りためた写真の幾つかを、スキャナーでデータにしてフォトブックを作り、大切な記念日に渡したこともあり、ヘスースの写真と重なって涙腺が緩んだことでした。