焙煎と障害を持つ人

 私は手話サークルの活動をしていることもあり、普通の生活よりも障害者と関わる経験が多少増えていると思います。それは聴覚障害のみならず、脳性麻痺による重度障害者とも関わる機会もあり、文字盤を使っての会話や、辿たどしい文字で書かれた詩を編集して詩集の自費出版を手伝うなど、これまで貴重な経験をすることができました。
 そんなこともあって、店舗計画の段階で車椅子の利用できるバリアフリー構造や、介助者が一緒に入ることができるトイレなど、設計にも随所に取り入れてきました。同時に、コーヒー豆の焙煎に伴うハンドピック作業を、障害者の作業所へ委託できないかとも考えたりもしたが、それが現実的でないことは直ぐに気づきました。なにせ焙煎量が少な過ぎるため、継続的に委託できるはずがないのですから。
 私のように考える珈琲屋さんも全国にはいるようで、中規模のロースターの中にはハンドピックやドリップバッグの作成を作業所に委託したり、一般的に圧着して作られるペーパーフィルターをミシン縫いで行う作業を委託するなど、コーヒーに直接関わるものから、店のロゴを入れたオリジナル・トートバッグの発注を障害者の施設に依頼する所もあるようです。
 そうした間接的なやりとりではなく、障害者の就労支援支援事業として、コーヒー豆の焙煎から販売まで行う施設が幾つも存在します。私の記憶では、茨木県の障害福祉サービス事業所「かがやき」が、平成15年4月に全国に先駆け障害者の施設で本格的なコーヒーの焙煎販売を始め、その後に全国各地で焙煎を取り入れた施設が増えていったと思います。「かがやき」では、『仕入から生豆の選別、自家焙煎、計量から袋詰め、ドリップバック作りに至るまで、すべての工程は手作業で行われ、自分たちの「目と手」で確かめ「鮮度と品質の良さ」にこだわった美味しいコーヒーを、自信を持って提供いたします。「障害者の施設だから・・・」と周囲に甘んじることなく、他のコーヒー店に劣らない商品づくりを目指しています。』とアピールされていましたが、現実には多くの施設で指導者やボランティアスタッフの援助なくしては実現しないようです。
 こうした就労支援事業とは、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練を行う事業のことを言います。そして、障害者の働き方には雇用契約を結び利用する「A型」と、雇用契約を結ばないで利用する「B型」の2種類があり、コーヒー豆の焙煎を行う施設の多くが就労継続支援事業B型というのが実態です。
 雇用契約を結び給料をもらいながら利用する「A型」と、通所して授産的な活動を行いながら利用する「B型」には多きな違いがあり、「A型」は利用者には最低賃金以上(月平均68,691円:平成24年度平均)が支払われ、「B型」の利用者には授産施設平均工賃(月平均14,190円:平成24年度平均)と、その支給額には大きな差があります。
 ただ、就労継続支援A型事業所については赤字を補うため国の給付金を賃金に充てていたケースもあり、厚生労働省が給付金の充当を原則禁止したため、大量解雇も発生していることから、障害者にとっては厳しい現実があるのです。それだけ障害者の就労には、労働対価を上げるような収益性の問題があります。これは、コーヒーの焙煎を行う事業所でも同様で、障害者の施設だからと甘えたくないと思いながらも、募金的な意味合いを持つような営業活動が行われたりします。

 こんなことを書いたのは、昨年末に『15歳のコーヒー屋さん 発達障害のぼくができることから ぼくにしかできないことへ』(著:岩野 響)が出版され、それに伴うマスコミの扱い方に疑問を持ったからです。「10歳でアスペルガー症候群と診断された岩野響さんは、中学時代に不登校となり、高校進学しない道を選んだのは、鋭敏な味覚と嗅覚、こだわりを生かして研究したオリジナルの焙煎コーヒーだった。」と大きく取り上げるのは良いのですが、大人達によって様々な情報が付け加えら、少々過熱気味な感じがしてなりません。

 既に障害を持った人達がコーヒーの焙煎から販売まで行う取り組みがあっても、15歳の少年が行うことだけが大きく取り上げられる事に不信感を覚えます。仮に40歳の発達障害の人が新たにコーヒー屋さんを始めても、同じように取り上げてくれるのでしょうか?また、15歳の少年が大人になった時も注目され続けられるのでしょうか?この少年を通して、本来見るべきものがあるのではないかと思うのです。

 そんな事を考えながら、焙煎と障害を持つ人について思いを巡らすのでした。答えは見つからないけれど。