ぽわ~んと

 先月参加したUCCコーヒーセミナーの帰り際、会場にあった情報誌を持ち帰りました。これは、UCCグループの外食店や小売店に関連する場所向けに年2回発行される、コミュニケーション誌『UCC COFFEE JOURNAL Good Coffee Smile』というもので、帰りの電車の中で暇つぶしにと読んでいたのでした。

 紙面はコーヒーの知識、フードメニュー、UCCグループのトピックスなどの情報が掲載されており、今回の特集記事は、「伝説を伝説で終わらせないために。レユニオン島の幻のコーヒー ブルボンポワントゥ復活物語」です。
 ブルボンポワントゥとは、18世紀にフランス・ブルボン島(現在のレユニオン島)で発見された突然変異種のコーヒーのことで、その豊かな香りと甘みはブルボン王朝の人々や文豪バルザックをも魅了したと言われています。

 その豆は、19世紀初頭にサイクロンや病害虫の被害を受けて生産量が減少し、1942年で輸出記録が途絶えて以降、姿を消したものと思われてきました。その幻となったブルボンポワントゥの再生に乗り出したのがUCCなのです。

 1999年にフランス国立農業研究開発国際協力センターとレユニオン島のサポートを受け、再生プロジェクトを開始し、島内に残るブルボンポワントゥを島民と一体となって捜索し、発見された約2000本の木の中から最終的に品質の優れた4本のマザーツリーが選び出されました。そして、試験栽培を繰り返した末に、2006年に再生に成功し、翌年からUCCが独占販売を開始しました。昨年は100g8,640円(税込)という超高級豆なんです。

 こうしたストーリーはコーヒーハンター川島良彰氏の「私はコーヒーで世界を変えることにした」で詳しく語られていますが、今では部外者となったため、川島氏の「か」の字も出てきません。それは大人の事情なので理解できるのですが、誌面に掲載されているブルボンポワントゥの味覚表現は次のうよ紹介されていました。

■香りは■ブルボンポワントゥのアロマは「香りのブーケ」とも称されるほど、フルーティな甘い香り。まるで、名もない野の花を集めたような繊細でピュアな香りを秘めている。焙煎直後はあまり香りが立たないが、粉砕すると大きく香る。ドリップする時、カップに注ぐ時、そして味わいながら。最後はカップに残る香りまで楽しみたい。

■味は■口にした誰もが驚くほどの澄み切ったクリアな味わいで、渋味はなく自然が育んだ低カフェインコーヒーの透明感と気品にあふれている。少し遅れて口の中に広がる甘味を含んだ酸味も印象的。しかも、冷めてもなお、おいしいのがブルボンポワントゥの大きな魅力。コーヒーの新しい世界を教えてくれること間違いなし。

 香りのブーケ?繊細でピュアな香り?どうも納得いきません。なぜなら、開業前に2回試飲する機会があり、その時の印象とはまるで異なる表現だったからです。パナマ・エスメラルダゲイシャを飲んだ時のような新鮮な驚きもなく、何だか「ぽわ~んと」した印象しか残っていません。ウンチクだけはたっぷり聞かされましたが、正直「何なん?」「どこが?」という記憶しか残っていなかったのです。

 月日が経って、改めて「香りのブーケ」や「繊細でピュアな香り」と言われると、あの時の自分は味覚音痴だったのか?と思ってしまい、もう一度味を確かめたいという願望がムクムクと沸いてきました。そうなると何とか飲めないものかと調べてみるものの、一杯2,500円のコーヒーは東海地区では飲むことができず、ますます飲みたくなります。

 そんな引き裂かれた恋人状態の時に、偶然にも春日井から珈琲狂が来店されました。思い切って「実際どうなん?」と尋ねると、「ぽわ~んと」って表現は間違ってないかもと言われてしまいました。色々と話を聞く中で、しだいに100年の恋もなんとか状態になり、一気に覚めてしまったという訳です。

 でも、男って未練たらしい生き物だから、きっと飲める場所に行ったら飲むんだろーな。2,500円払っても!