コーヒーの酸味を楽しむ

 コーヒーの飲用が喫茶店から広まった日本では、苦味の強い喫茶店の味に慣れ親しんでいるので、コーヒーの酸味が苦手な方が結構多いのです。「酸っぱい=まずいコーヒー」「苦い=うまいコーヒー」といったイメージが定着しており、缶コーヒーのキャッチコピーに「炭火焼き」なんてついていると、ついつい美味しそうとイメージしてしまう方も多いのでは?お店に来店される方も注文時に、「酸味の少ないコーヒーを!」と言われる方も少なくありません。

 そうした傾向から、今では酸味が重要視され、都市部のコーヒー専門店では浅煎りの酸味の際立つコーヒーが多く飲まれるようになりました。その背景には、90年代後半にコーヒーの国際品評会として作られた『カップオブエクセレンス』において、評価フォームの一つに「酸味」の評価が入っており、美味しいコーヒーには酸味は欠くことのできない要素になっていったこともあります。

 また、SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)によるスペシャルティコーヒーの判定・評価の概要には、1. カップ・クォリティのきれいさ、2. 甘さ、3. 酸味の特徴評価、4. 口に含んだ質感、5. 風味特性・風味のプロフィール、6. 後味の印象度、7. バランス、とあり、酸味の特徴評価について具体的に、『コーヒーが如何に明るさを持つか。明るい爽やかな、あるいは繊細な酸味がどれ程であるかが評価対象。良質の酸味は、コーヒーに生き生きとした印象度を与え、繊細さ、しっかりとしたバックボーンを与えるもの。酸度の強さではなく、酸の質について評価をする。反対に、刺激的な酸味、不快な印象度を与える酸味、爽やかさ・キレの無い酸味、劣化した嫌な酸味は、スペシャルティコーヒーには有ってはならない。』といった、酸味の重要性が明記されています。
 コーヒーの酸味は、生豆の品種と焙煎の度合いによって決まります。酸味を感じる成分はコーヒー豆に含まれる抗酸化作用のある成分の一つ「クロロゲン酸類」の味によるもので、「クロロゲン酸類」の成分は焙煎度いが浅いと強く出て、深いと弱まります。つまり焙煎が進んで中煎りから中深煎り、深煎りと進むにつれ酸味は弱くなっていくのです。そのため、都市部の店舗では浅煎りに特化して酸味を売りにしている所も出ているようです。酸味の強さではなく、酸の質が問われなければいけないのに、刺激的な酸味や不快な印象を与える酸味を良いものだとして販売する店も存在します。

 そうしたコーヒーの酸味は経験を増やさないと美味しく感じることができません。この酸味は良いものだと言っても、美味しいと感じてもらえなければ独りよがりな味になってしまいます。そんな意味もあって、今回、コスタリカのブラックハニーを取り上げてみました。既に常連の方々に試飲をしてもらっていますが、評価はマチマチです。けれど、こうしたイベントを行うことで普段飲まないコーヒーを飲む機会が生まれ、新しい楽しみが増えることを期待しています。ついつい敬遠されるコーヒーの酸味も、美味しさの一つと感じることができればもっと楽しみが広がるはずです。