蒸らし

 毎朝、妻と飲むコーヒーが最初の一杯になります。今朝も蒸らしで膨らむ様子を見ながら、コーヒーを淹れる時間を楽しいんでいるのですが、この一般的に言われる”蒸らし”について理解している方が意外に少ないことに驚かされます。

 コーヒーを淹れる時に、第1湯目(いっとうめ)を注ぎ、粉が蒸れて膨らむまで少し待ちますが、理由は二つあります。

■コーヒーの粉全体にお湯の通り道を確保するため

 お湯は一度通った場所に通りやすい性質があるため、全体が湿るように軽く注いでおくと、中心部に注いでも全体にしみわたるようになります。透明な樹脂製のドリッパーの場合、ペーパーにお湯がしみているかが確認できるので、白く残った部分がないか見ることができます。

■多孔質である粉にお湯をしみこませるため

 粉には、焙煎で繊維質が壊れてできた多孔質の小さな部屋が存在します。その小さな部屋に、焙煎で生成された香味が格納されているのです。最初にお湯を注ぐことで、部屋の中の気体と引き換えに、お湯が入り込み、部屋内部にある香味のエキスを溶かし出し、部屋内部にエキスを充分溜めるための作業になります。

 蒸らしの時間は20秒~30秒などと言われますが、本来はコーヒーの種類、鮮度、粒度(挽き方)、焙煎度、によっても違います。あっさり出したいのか、濃く出したいか、ましてや粒の大きさの違う物であれば、おのずと蒸らしの時間が異なるのは当然です。仕組みや目的に合った蒸らしの時間をタイマーを使って探すの一番です。

 蒸らしの後に注ぐお湯は、多孔質の小さな部屋にあるエキスをお湯との濃度差を利用し、浸透圧によって部屋からエキスを引き出すことになります。ですから、コーヒーの層を意識して、常にお湯を細く注いで「濃度差で引き出すぞ!」ってな気持ちで淹れるのです。間違いやすいのは、お湯量が多くなってしまい、抽出層が壊れて、ドリッパー内にお湯が溜まり、部屋と外のお湯との間に濃度差がなくなり、浸透圧が止ってしまうことです。

 毎回コーヒーを淹れるたびに、こんなことを考えている訳ではありませんが、理屈を知っていれば蒸らしの時間を待つ余裕も生まれてきます。何事も待つ時間ってものには意味がある訳(たぶん)でして、待てる(余裕のある)人間になりたいものです。