コーヒーを挽く

 コーヒー豆を購入されるお客様には、豆のままの方と豆を挽く方がそれぞれあります。コーヒー豆の劣化を防ぐには豆のままがよいのですが、ミルをお持ちでなかったり、手軽さを考えて「挽いてください。」と依頼されるのです。

 そんな時には、右のサンプルを出して「どの程度に挽きますか?」と尋ねることにしています。多くの方が「普通で。」とか、「いつもお店の人に任せている。」とおっしゃるので、粉にした状態を意識したことがないのかも知れません。コーヒー豆を挽くことは、豆から粉にすることで抽出をし易くすることであり、挽き具合によって表面積が数十倍から数百倍に異なって、コーヒーの成分を抽出する条件が変わってしまうのです。

 では、コーヒーの抽出の原理の話になるのですが、ここからは、『コーヒー「コツ」の科学』(石脇智広著・柴田書店)から引用します。

 “コーヒーの抽出は、二つの過程から成り立っていると考えられています。第一の過程は、粉の表面と湯の間で起こるコーヒーの成分の移動です。この移動の速さは成分の濃度差に応じて異なります。粉の表面のコーヒーの成分が濃いほど、あるいは湯に含まれるコーヒーの成分の濃度が薄いほど、速く移動します。ですから、粉の表面にコーヒーの成分がたくさんあって、湯にコーヒーの成分が溶けていない抽出開始直後は早く移動が起こり、時間がたつにつれて徐々に遅くなっていくことになります。これはコーヒーを一分間で淹れる場合と二分間で淹れる場合の一分の差は、四分間で淹れる場合と五分間で淹れる場合の一分間の差よりも大きくなることを意味しています。

 第二の過程は、粉の中心部から粉の表面へのコーヒーの成分の移動です。第一過程で粉の表面の成分が溶け出して、表面の成分が薄くなることによってこの第二の移動が起こります。この第二の成分移動は、第一過程に比べてゆっくりと進行する点が特徴的です。コーヒーの味が原料や淹れ方によって変わってくるのは、この第二過程の影響が大きいのです。”

 コーヒーの粉とお湯との接地面積や粉の大きさによって、抽出に影響があることがなんとなく理解できたのではないでしょうか。ですから、ペーパドリップは「中挽き」といった先入観を捨てて、色々な粒度で試してみてください。きっと自分の好みに合った挽き具合が見つかると思います。